5.


意識が戻って数日。

マリクの身体は少しずつ回復に向かっていた。
まだ、足元はおぼつかないがベッドから降り、もの伝いに少しずつ歩く。

その様子を見かねたリシドが、思わずマリクの肩を持った。

「大丈夫ですか?マリク様…。
あまり無理をなさらないで下さいね。ゆっくりと治していきましょう?」

まるで、壊れそうな宝物でも扱うかのようなリシドの姿に思わず噴出しそうになるのをこらえつつ、マリクは軽く微笑んでみせた。

「大丈夫だよ、リシド。
皆にも随分心配かけたからね。早く元気な姿を見せないと」

いかにもらしい言葉を選び、口にする。


意識が戻った後イシズとも会ったが、姉は弟の変化に気が付かなかったらしい。

結果、マリクは『主人格様』を演じ続けることになった。


始めは面白がっていた。

自分を自分と気付かず優しく接してくるリシドの姿を、心の中であざ笑ったりもしたが…

時に、その優しさを心地よいものと感じる事もあった。



このまま、主人格様として生きてやるのもイイか…?


そう思うことすらあった。


しかし…

次第に心の中に苛立ちか生まれ、いつしか演じることが苦痛になりはじめる。



  何故…オレだと気付かれないのか?


  オレと主人格様…

  オレ達は、本人が自覚出来る程に外見の雰囲気が違っていたと思う。


  そう。
  以前、表に出た時は───




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