4.
「ぁ…ッ。いま医師(センセイ)を呼んできますからっ」
そう言うと、リシドは涙を見せてしまったことを恥じる様に顔を背け、立ち上がる。
マリクは無意識に、その後を追うように身体を起こそうとした。
同時に、全身が激しく軋む。
「っッ…ぁッ!!」
「マリク様ッ!無理をなさらないで下さい…っ。すぐに医師を連れてきますから」
そう言うと、リシドはマリクをベッドに寝かしつけ部屋を後にした。
シン…と静まり返った部屋に1人残されたマリクは、あらためて記憶を探る。
…交通事故…?
その口端が…微かに歪んだ。
…そうか…クク…
交通事故!!
とんだ間抜けをしでかしたな、主人格様は。
その意識は…マリクであって、マリクで無いものになっていた…
交通事故で主人格様の意識がフッ飛んでオレと換わったってことかぁ…?
しかも、三ヶ月。
こりゃぁ主人格様も、もうとっくにくたばっちまってるか?
「…ッククク…っ」
こらえきれず咽喉が響き、その口元から笑い声が漏れる。
つまり、この身体は『オレのもの』ってわけか!!
しかし…先刻のリシドの様子…
ありゃ、すっかり主人格様が戻ってきたと思ってやがるな。
まぁイイ。
暫く、主人格様のフリをして様子をみてやるか。
ククク…
どうやら面白い事になりそうだよ。
なぁ…主人格様?
マリクは意識の中で、そう闇に問いかけていた。
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