3.


目覚めると、目の前に見慣れない白い天井が広がっていた。


──…どこだ?─
─ここは…──


薄もやのかかった頭で考えながら、辺りを見回す。

壁も、窓にかかったカーテンも、全体が白で統一された部屋。
起き上がろうとしたが、うまく力が入らず苛立ちを覚えた。

その時、ガチャリ、とドアの開く音が聞こえ、音のした方向に顔を向ける。

そこには見慣れた顔の男が、呆けた様な表情で立ち尽くしていた。


「…リ…シド…」

掠れた小さな声を咽喉から絞り出すようにして、その男の名を呼ぶ。


「マリク様!?」

手にしていたグラスが落ち、割れる音が響いていたが、リシドはそんな音は聞こえてない様な勢いでマリクの元に駆け寄った。

「マリク様…っ…気が付かれたのですね…」

その目には、いっぱいの涙が溜まっている。


「こ…こは…?」

「病院です」

マリクの問いに、リシドは続けて答えた。

「マリク様…交通事故に遭われたのですよ。覚えていらっしゃいますか…?」



ふ…と、天井の方に目をやり少し考えると

「ああ」

と答えたマリクの頬に、リシドの手が軽く触れる。

「お身体の怪我は酷くなかった様ですが…打ちどころが悪かったのか、意識を無くされて三ヶ月…」

「…三ヶ月…?」

「ええ…。本当に…本当に心配していたんですよ…。もう…お目覚めにならないのかと…ッ」

リシドは声をつまらせると、目から溢れそうな涙を拭った。




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