2.
唇が微かに動く。
だが、その言葉は声にはならなかった。
あ…れ…?
声が…出ない…。
目の前で必死に自分の名を呼び続けるリシド。
その頬に手を伸ばそうとしたが、力は入らなかった。
リシドは今にも泣き出しそうな表情で、マリクの名を呼び続けている。
その声が、次第に遠のきはじめた。
リシド…
そんな表情(カオ)しないで
ボクは大丈夫…だから…
そう伝えたいのに。
視界に、意識の中に…少しづつ霧がかかっていく。
何も、判らなくなっていく。
静かに。
ただ、ゆっくりと堕ちていく様な、浮遊感。
生暖かい自らの鼓動だけが静かに響く中、マリクの意識は眠るように闇へと沈んでいった。
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