1.


「乃亜め…何時までこんなふざけた事をするつもりだ!!」

辺りには誰も居ない。
偽りの世界。

バーチャル空間に唯一人、連れ去られた実弟モクバを救い出すべく海馬瀬人はあてもなく彷徨っていた。

『キミは僕の当て馬なのさ…』

乃亜の言葉が耳の奥にこだまする。
まるで自分の全てを見透かした様な乃亜の言葉と行動に、海馬のプライドは激しく傷つけられていた。

「フン、くだらん冗談だ…」

未だ義父・剛三郎の呪縛から抜け出せない自らを諌める様に、乃亜の言葉を振りはらう。


とにかく今は、モクバを見つけだす事が先決だ。

だが、このままでは悪戯に時が過ぎて行くばかり…。
だからといって、これ以上乃亜に振り回されるのも癪だった。

「どうする…」

自分に問い掛ける様に小さく呟いたその時、目の前の壁が扉となって開き、そこから見覚えのある顔が姿を見せた。

「マリク!?…貴様、何故ここに居る?」

バトルシップを降り、共にバーチャル世界に飛ばされた中にマリクの姿は無かったはず。

(これもバーチャルだと…?)

しかし。

深き闇へと誘う虚ろな瞳…
全身から揺らぎ立つ狂気の匂い…

その姿には生々しさが漂ってくる。




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